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メニエール病の疫学調査

メニエール病の疫学調査

厚生労働省難治性疾患克服研究事業前庭機能異常に関する調査研究研究班では、昭和49年(1974年)の発足当時から現在に至るまで種々の方法でメニエール病の疫学調査が継続されている。この調査は、研究班員所属施設による全体調査と、班員独自の個別調査に分けられる。

このうち全体調査は35年の長期にわたるもので、症例数も多数で種々の対照調査も行われるなど、世界的にも例を見ない充実したものである。また、個別調査は各研究施設による地域別有病率、メニエール病患者と対照例の行動特性調査など種々のものが行われているが、とくに、ここ十数年、富山大学による特定地区の定点観測的な有病率、罹患率調査が継続されている。

メニエール病の疫学的特徴

わが国のメニエール病の疫学調査は、1970年代に厚生省メニエール病調査研究班により開始され、2013年まで難治性疾患克服事業前庭機能異常に関する調査研究班、2014年からは難治性疾患政策研究事業難治性平衡障害に関する調査研究班、2016年からは難治性めまい疾患に関する調査研究班により疫学研究が継続されてきた1-3)

下記にメニエール病確実例の疫学的特徴を示す1ー7)

性別
  • 1970年代は男性多数
  • 1980年代に入り女性多数となる
その他患者背景
  • 既婚者の割合が多い
  • 専門技術職に多い
  • 農林漁業、技能生産単純労働者に少ない
  • 几帳面で神経質な性格が多い
発症時間帯
  • 早朝から夕方が多い
  • 夜間は少ない
発症時状況 以下の状況下で発症が多い
  • 頭脳労働時
  • 肉体労働時
  • 起床時
発症誘因
  • 精神的過労
  • 肉体的過労
  • 睡眠不足
聴覚症状の特徴
  • 両側例が約10%

さらに近年、60歳以上の高齢新規発症患者の増加が報告されている。1975年当時の調査では、平均発症年齢は男性42.2歳、女性41.4歳であり、60歳以上の発症割合は男性10.7%、女性13.2%であった。その後、2008年の調査では平均発症年齢は男性48.5歳、女性51.4歳、60歳以上の発症割合は男性19.8%、女性30.2%であり、平均年齢にして約10歳、60歳以上の発症割合は約2倍に増加していた。

わが国では人口高齢化のスピードが先進諸国でもっとも早く、今後、60歳以上の高齢メニエール病患者が増加する可能性が指摘されている。

  1. 渡水越鉄理、猪初男、石川和光、渡辺行雄、山崎晴子、渡辺勇、大久保仁:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によるメニエール病の疫学調査と症状調査(個人調査票・症状調査票による集計と対照例との比較).耳鼻臨床 70:1669-1686、1977.
  2. 渡辺勇、水越鉄理、大久保仁:「前庭機能異常」に関する疫学調査報告-個人調査票集計を中心に-.耳鼻臨床 76:2426-2457、1983.めの資料 診断基準2017年改定.Equilibrium Res 76:233-241、2017.
  3. 渡辺行雄、水越鉄理、中川肇、大井秀哉、将積日出夫、安村佐都紀、中江公裕、北原正章、矢沢代四郎、渡辺勇:メニエール病の症例対照調査結果-メニエール病確実例と対照例:めまい症例、一般症例、健康者との比較を中心に-.Equilibrium Res 50:1-10、1991.
  4. 中村晃英:メニエール氏病の気象学的考察.耳鼻臨床 49:43、1956.
  5. 安田宏一、時田喬、宮田英雄、高安劭次、香取早苗、山崎勤、酒井昇、山川宗位、柳内統:札幌・立川・岐阜・福岡におけるメニエール病発作と気象に関する同時調査.耳鼻 24:946-954、1978.
  6. 水越鉄理、將積日出夫、渡辺行雄:メニエール病の疫学 本邦の疫学研究を中心に.Equilibrium Res 56:219-233、1997.
  7. Shojaku H、Watanabe Y、Yagi T、Takahashi M、Takeda T、Ikezono T、Ito J、Kubo T、Suzuki M、Takumida M、Takeda N、Furuya N、Yamashita H:Peripheral Vestibular Disorder Research Committee of Japan: Changes in the characteristics of definite Meniere's disease over time in Japan: a Long-term survey by the Peripheral Vestibular Disorder Research Committee of Japan、formerly the Meniere's Disease Research Committee of Japan. Acta Otolaryngol 129:155-160、2009.

メニエール病の有病率

疾患の有病率、罹患率の推定は患者動態を把握することで厚生行政への反映、医療経済を考慮する上で重要な事項である。

しかし、メニエール病の場合は、
1)本疾患を診療する全ての診療科での診断基準の理解が必ずしも十分ではない
2)複数の医療機関を受診している患者が少なくない
などの理由で医療機関を対象とした精度の高い調査が難しい状況である。

そこでメニエール病の有病率は、耳鼻咽喉科の受療圏が限定的と考えられる特定地区(新潟県糸魚川、同県佐渡、岐阜県高山地区)の総合病院の受診患者を対象に1995年から経時的に調査が行われ、地区ごとに異動はあるが人口10万人対35~48人程度と推定された8)

  1. 渡水越鉄理、猪初男、石川和光、渡辺行雄、山崎晴子、渡辺勇、大久保仁:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によるメニエール病の疫学調査と症状調査(個人調査票・症状調査票による集計と対照例との比較).耳鼻臨床 70:1669-1686、1977.